日本の水道事業

2022年03月28日

水道水をそのまま飲める国は日本の含めて9か国のみといわれています。今回は日本の水道事業について紹介します。

日本における水道の歴史


1878年 コレラなどの伝染病が全国的に発生。外国の窓口であった開港都市を中心に水の衛生の改善を国が指示。

1887年 横浜に日本初の近代水道が完成、給水開始。

1925年 水道事業の普及率 20.7%

1950年 2度の大戦の影響で水道事業の整備が停滞。水道事業の普及率 26.2%

1960年~ 高度経済成長期

戦後の産業発展に伴う人口増加に加え、洗濯機、自家用風呂、水洗便が普及するなど水需要が増加、上下水道インフラの整備が急速に進む。

1970年 水道事業の普及率 80.8%

2018年 改正水道法が成立(水道事業の民営化が可能に)


日本の水道事業の現状

日本の人口変動や節水機器の普及等による家庭での一人当たりの使用水量の減少により、有収水量は2000年をピークに減少しており、約40年後には有収水量がピーク時より約4割減少すると言われています。

 また、水道事業は、原則皆さんからの水道料金で運営(独立採算制)されていますが、人口減少に伴い料金収入も減少し、水道事業の経営状況は厳しくなっていて、水道施設の更新など必要な整備が行えず、老朽化が進行しています。

さらに、過度なコスト削減に伴う水道職員の削減による体制の弱体化により水道施設の維持管理が困難とな り、漏水等の事故が増加するなど、水道サービスの低下が懸念されています。 


●水道施設の老朽化

高度経済成長期に整備された施設が老朽化。年間2万件超の漏水・破損事故が発生しています。

法定耐用年数(40年)を超えた水道管路の割合が年々上昇しており、高度経済成長期に整備された施設の更新が進まないため、今後も管路経年化率は上昇すると見込まれています。

平成27年度の管路更新率0.74%で計算すると、 全ての管路を更新するのに130年以上かかる想定となります。


●都道府県別の管路経年化率

法定耐用年数である40年を超えた管路の割合は、大阪府に続き、神奈川県、山口県が多くなっています。

開港都市を中心に水道施設の整備がすすめられ、多くが高度経済成長期に整備されたことが背景にあると思われます。

東京は給水人口や職員数が多く、更新作業が進んでいることなどから平均以下の数値となっています。

引用:厚生労働省「最近の水道行政の動向について」より


●水道事業の職員数

水道事業に携わる職員数はピーク時と比べて3割程度減少しており、特に地方などの小規模事業では職員数が平均で1~3名で著しく少ないです。 今後は、経営基盤、技術基盤の強化のため、近隣水道事業との広域化や官民との連携などにより水道事業を支える体制を構築する必要があります。

引用:厚生労働省「最近の水道行政の動向について」より


●水道事業の経営状況

事業者別では、全1273事業者のうち、約33%(424事業者)で料金回収率が100%を下回っています。

給水人口規模別では、政令指定都市以外のほぼ全ての事業者規模で累積欠損金が発生しています。

事業者別       給水人口規模別

引用:厚生労働省「最近の水道行政の動向について」より


日本の水道事業の将来

EY新日本有限責任監査法人と水の安全保障戦略機構事務局による民間グループの研究結果によると2043年度までに値上げが必要とされる事業者数は94%(1,162事業者)で、水道料金の値上げ率は平均で43%と推計されます。

また、小規模事業体ほど料金の値上げ率が高い傾向があります。

引用:EY新日本有限責任監査法人、水の安全保障戦略機構事務局 「人口減少時代の水道料金はどうなるのか?」より


水道事業は主に市町村が経営しており、小規模で経営基盤が脆弱な事業者が多いことから、施設や経営の効率化・基盤強化を図るため広域的な連携の推進(事業の統合など)に取り組んでいますが、水道事業者間の水道料金や財政状況の格差、施設整備水準の格差等から進んでいないのが現状です。

水道事業者等の間の広域的な連携の推進に関して協議を行うため、都道府県の積極的な関与が求められています。


まとめ

日本の水道事業は、浄水場や配水池、水道管など高度経済成長期に整備した水道施設の老朽化、人口減少による給水人口・給水量の減少とそれに伴う料金収入の減少、水道職員数の大幅な減少が課題となっています。

これらの課題解決に向けて広域化や民間企業のノウハウを活用した業務の効率化が注目されていて、地方自治体は広範囲での業務に対応するため、民間企業との更なる連携強化が必要になるとみられています。


参考文献:厚生労働省「最近の水道行政の動向について」 EY新日本有限責任監査法人、水の安全保障戦略機構事務局「人口減少時代の水道料金はどうなるのか」